しまなみ遠足は芸術作品だ!
津軽海峡は深い海で、北海道のヒグマはここ越えて本州に来ることはなかった。しかし九州と本州、四国は一万年前の氷河期には陸続きで、動植物の行き来は自由であった。その後温暖化が進み海水が増え四国と本州は瀬戸内海で隔てられた。陸続きだったのは人類の歴史からいえば、昔のことではない。縄文人たちはすでに日本列島のあちこちに住み、獲物を追い、木の実を採集して暮らしていた。私のDNAの中にはご先祖様がゾウを追って、実際瀬戸内海からはゾウの化石がたくさん出てくるのだが、走り回っていた記憶がかすかに残っているようだ。
1999年、本州と四国の間に第三のルート「しまなみ海道」が開通した。これまでの2ルートは車、列車専用の橋で、人が歩いて渡ることは想定されていなかったが、ここには「人の道」がつけられた。縄文人の思いを残す私は「歩いて行くぞー」と張り切った。しかし実行前に海宝さんが「しまなみ海道100km遠足(とおあし)」を企画した。私の計画は尾道大橋から来島海峡の橋を渡るという単純なものだったが、歴史的風景にこだわる海宝さんは福山城と今治城を結ぶ100kmの道を描き出した。海宝流の空間的、歴史的視点の違いに「ムムーッ、負けた」。すぐに軍門に下り、今治城攻めの「しまなみ海道100km遠足」に参加すべく申し込みをした。城から城へという発想により、走る目的地がはっきりし、気力も充実した。100kmの距離は気力、体力が充実しなければ走りきれるものではない。端から端まで、橋から橋までという安易なコース取りでは気分が乗らなかったろう。
第1回目、四国に渡って95km地点を過ぎ、暮れかかった今治の町をとぼとぼと走っていると、ちょっと酔っぱらったおじさんが「どこから来たのか?」と聞いてきた。「福山城から走ってきた」というと「ウソつくな、そんなところから来れるわけはない、オレは軍隊で行軍は一番だったが、そんな距離を行ったことはない!」と怒鳴られた。しかしそれを聞いた時には、うれしくなった。「来れるはずない!」ということは、今までそんな人を見たことはないということだ。山登りの初登攀ではないが、まさにそれを成し遂げたような気分だった。
4回目までは連続で気分の良いコースを走った。だんだん記録も短縮されてきたが、2003年3月、頭の血管が詰まって倒れた。奥さんが迅速に病院へ搬送してくれたので数日の入院ですんだが、もう二度と走れないだろうと自分でも思った。しかし回復は順調で六月のしまなみを意識できるようになり、行けるところまでと、海宝さんに頼み込んだ。ゆっくり走ったせいか景色もよく見えた。最後にはヨレヨレだったが、今治のお城までたどり着いた。城下には心配げに海宝さんが迎えてくれた。突然涙がこぼれた。走れるということがこんなに喜ばしいことだったとは思わなかった。すっかり自信を取り戻し、また走り旅が続けられるようになった。
私にとって海宝さんの造ったしまなみコースはまさに宝物だ。「コースなんか誰でも設定できるじゃない」というのは走ったことがない人のセリフ。コース設定は海宝さんの思いがこもった芸術作品のようだ。昔、植村直己さんの北極圏犬ぞり旅行に対して、詩人の草野心平さんは歴程賞を贈った。詩を書いたこともない植村さんだが、草野さんは彼が行動で地球に詩を書いたと評価したのだ。私はマラソンのコースを造ることもすばらしい芸術行為だと感じている。もし私がなんとか賞の審査員ならこの「海宝しまなみ海道」のコースに芸術賞を授与するのだが。
それから2年、やはり3月、船の科学館の24時間チャリティランに参加するためにゆりかもめの駅を降りたが、どうにも足が重い。「こりゃおかしい」とリレー仲間に告げ、慈恵医大に行くと即入院。今度は心臓が詰まっていた。腕の血管から心臓にバルーンとやらを入れたりして何とか回復。1年かけてリハビリをし、友人、奥さんが監視つきで、またしまなみ海道に戻ってきた。景色は変わるはずはないのだが、見る気分はまたまた新た。真の芸術はいつ見ても感動が新たなものだ。めでたし、めでたし!
しかし自信はすぐに過信に代わり、7月に今度はアキレス腱が切れた。それから5ヶ月、歩けるようになったところで、「しまなみ海道」が目の前にちらついてきた。第10回目のしまなみで、再び、三度、海宝芸術鑑賞会に参加するぞと思い描いている今日この頃。
2007年「しまなみ海道100km遠足」の完走記は以下です。お暇な方は見てください。
三輪主彦
http://kazmiwa.web.infoseek.co.jp/070605simanami/shimanami1.htm
★三輪さんのホームページでは写真も掲載されていますので、ぜひ、ご覧下さい。
「2008年しまなみ海道100kmウルトラ遠足」は、第10回目の節目となる大会になります。瀬戸内海、しまなみ海道の景観のすばらしさと様々な人との出会いも楽しんでいただけたら嬉しいです!(大会事務局)